家族信託がうまく機能しないケース──「家族がいる前提」が崩れたときに起きること

老後制度(家族信託・後見など)

家族信託は、一見万能に見えます。

「これさえあれば安心」と思う人もいるでしょう。

しかし、実際の相談現場では、

受託者になった子どもが遠方勤務となり、

信託契約はあるのに日常の支払い対応が滞ってしまったケースがありました。

制度は整っている。

けれど、生活は回らない。

この「制度と生活のズレ」が問題の本質です。

家族信託が想定している前提

家族信託は基本的に、信頼できる家族が受託者(管理役)になることを前提に設計されています。

もしその前提が崩れると、財産管理はできても、生活面のサポートは回らなくなります。

例えば、以下のようなケースです。

  • 受託者がいない/担えない

子どもが遠方に住んでいる、仕事が忙しすぎる、そもそも親族がいない場合

  • 形式上は家族がいても、実務が回らない

受託者になる子ども世代は、親への想いから「自分がやるよ」と引き受けてくれます。しかし、現実は過酷です。遠方に住んでいれば、振込や手続きのために貴重な有給を使い、何度も帰省を繰り返すことになります。慣れない書類仕事に追われ、「自分がミスをしたら親の生活が止まる」というプレッシャーを抱え込み、パンクしてしまう受託者は少なくありません。

  • 「財産管理」はできても「生活」はカバーできない

「信託口口座があるから大丈夫」というのは、あくまでお金の出入り口の話です。実際の介護現場では、お金だけでは解決できない「名もなき実務」が山積みです。

  • できる(管理面): 施設費用の振込、不動産の売却、入院費の支払い
  • できない(生活面): 病院への付き添い、介護タクシーの手配、ケアマネジャーとの面談、施設入居時の身元保証

「通帳は預かっているけれど、日々の生活を支える手が足りない」。家族が離れて暮らしている場合に直面する、最大の壁がここにあります。

大事なポイント:制度の欠点ではない

ここで注意したいのは、これは家族信託そのものの欠点ではないということです。

制度はあくまで、「財産管理と承継」をスムーズにするための仕組み。

生活面のサポートまでを契約書でカバーすることはできません。

つまり、家族信託がうまく機能するかどうかは、「家族がどこまで動けるか」という状況次第なのです。

「家族がいない」「物理的に関われない」という条件だと、

信託だけでは必ず不足が生じます。

今回のまとめ

この回で伝えたいのは、以下の3点です。

  • 家族信託=万能ではない
  • 制度がうまく回るかは、家族の「実務能力」という前提条件による
  • 生活面の課題を解決するには、別の仕組みやサポートが必要

家族信託は非常に便利な仕組みです。

しかし、前提条件を確認せずに導入すると、

生活面に”空白”が生まれます。

次回は、その「生活面の空白」をどう埋めるのか。

家族に頼れない、あるいは家族をパンクさせないための現実的な選択肢を整理していきます


【シリーズ:家族の備えを考える】

前回:頼れる家族がいない=詰み、ではない

次回:老後の不安は「お金」より「生活」で起きる

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