『親が認知症になる前に、家族信託をしておけば大丈夫』……
ネットや本ではそう書かれているのをよく目にします。
私の相談現場でもよく聞かれる言葉です。ですが、正直に申し上げます。
「家族信託だけ」では、老後の生活は守りきれません。
実際、現場では「信託の契約はバッチリだったのに、いざ入院となったら手続きや身の回りの対応で家族がパンクしてしまった」というケースを何度も見てきました。
今回は、家族信託という強力な「道具」をどう使いこなすべきか。その境界線をはっきりと整理します。
家族信託で「できること」:資産の凍結を防ぎ、次世代へつなぐ
家族信託は、預貯金や不動産といった「資産」の管理をスムーズにするための、非常に強力な仕組みです。
主な役割は以下の3つです。
- 資産(お金・住まい)の管理と凍結防止
預貯金だけでなく、不動産(実家)などの資産をあらかじめ受託者(子など)の管理下に移しておくことで、親が認知症になっても資産の運用や売却が止まりません。
- 支払い・資金移動の代行
介護施設費用、家賃、実家の維持費など、親の資産から親のために必要なお金をスムーズに動かせます。
- 「その先」の資産承継(遺言の代わり)
親が亡くなった後、残った資産を誰にどう引き継ぐかまで、あらかじめ柔軟に決めておくことができます。
ここまでを整えておけば、大切な資産に関する「管理・処分の権限」は、かなり安心できるでしょう。
家族信託で「できないこと」:生活と契約のサポート
一方で、家族信託には法律上の限界があります。
以下のことはカバーできません。
- 身上監護(生活面の契約・決定)
施設入居の契約にサインしたり、
入院の同意をしたりする権限は信託にはありません。
- 日常生活のサポート
買い物、通院の付き添い、役所の手続きといった「動くこと」は契約の範囲外です。
- 現実の「生活の隙間」の穴埋め
家族信託の契約書という「紙の上」の準備だけでは、日々の細かな困りごとは解決しません。
現場目線のアドバイス:制度の「役割」を再確認する
家族信託はあくまで「会計(資産管理)」の道具です。
現場での失敗例で多いのは、
「資産は守れているけれど、生活の現実に対応できずに家族が疲弊した」
というパターンです。
混乱を防ぐポイントは、役割を明確に分けることにあります。
- 財産を守る(会計) → 家族信託
(信託した財産の管理・支払い・処分)
- 生活を支える(手足) → 生活支援サービス・家族家族の協力
(買い物、通院付き添い、見守りなどの「体を使う」サポート)
- 本人の代わりに判断・契約する(代理人) → 任意後見・法定後見
(施設入所や入院の契約、介護サービスの契約にサインする権利)
まとめ:家族信託の契約書を作って「終わり」にしない
「立派な家族信託の契約書を作ったから安心」
というわけではありません。
大事なのは、その道具を使って、実際に誰が現場を回すのかという「布陣」を組んでおくことです。
お金を守る「会計」の準備ができたら、次は生活の細かな部分を担う「手足」が誰なのかを、必ず確認しておいてください。
財産管理(家族信託)と生活支援(実働)、この両輪が揃って初めて、老後の安心は完成します。
総括
この記事が、あなたの家の「布陣」を考えるきっかけになれば幸いです。
• 【布陣の考え方を復習する】
→前回の記事:老後対策は「誰が、何を担当するか」の布陣を組むということ
• 【生活の「手足」について知る】
→身寄りがなくても暮らしを支える「手足」の選び方


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